【あらすじ】
「にんげんのつくりあげた生き地獄」
1982年に刊行された幻のきり絵絵本が、原爆投下80年目の今年、43年ぶりに復刻! 救援のため原爆投下直後の広島市内に入った陸軍兵士が目撃した凄惨な光景を、一本の刀(とう)によるシャープなラインで切り取った迫力のきり絵作品に、そのときの強烈な記憶を刻む文章を添え、作家が全エネルギーを注いで完成させた鎮魂の紙碑!
その日、爆心地南方6キロにあった部隊から見上げた巨大なキノコ雲、救援の舟艇が動けなくなるほど川面を埋め尽くした死体、水を求め池に群がる襤褸の被爆者たち、はいずりながら子を探す母親、死んだ母の乳房を探る幼子、背中一面にガラス片を浴びた婦人、衣服を焼かれただれた裸形をさらした女学生、屋外で荼毘に付される遺体、重傷者が繃帯もなく寝かされた病棟の惨状……
原爆の惨禍を「きり絵」で再現した世界唯一の絵本。あらゆる年齢層の読者に鮮烈な印象を残す名作画文集。
「その地獄絵が、あの日以来、私の胸中に住みついた」
この目で見、この耳で聞いた原爆の図を、たとえ拙くとも、後世に描き残しておこうと、ある日、思い立ったのだ。いまこそ描かなければ、明日では遅すぎるかもしれない。還暦も過ぎてから、私は駆り立てられるようにして絵筆をとり、切り絵用の刀(とう)を揮った。
――寺尾知文